ギャンブルとはリスク下での意思決定である。特に興味深いのは、ギャンブルが金融市場の持つ複雑さの多くを持つとと同時に短期間に何度も繰り返されるので、多くの金融市場で一般的に可能なレベル以上に明確な解析を行うことが出来る。この性質のため、投資家集団の振る舞いを赤裸々に見ることがある場合には可能になり、それは市場の効率性の検証に関してもいえる。
競馬市場の研究を手短に述べておく。USでの競馬用語を採用する。通常6から12頭の馬がレースに参加し、いくつかの賭けの形式が存在する。単勝は1着をあてる、複勝馬券(place,show) とは2着(3着)以内に入る馬をあてるもの。単勝、複勝のような一頭の馬を指定する馬券の種類をストレート馬券。他に、エキゾティック馬券では、2頭以上の馬の結果を予想する。例えば、馬連は12着の馬のペアを、馬単は12着の馬のペアと順序をあてるものである。
もっとも単純なのは単勝である。Wiで馬iへの賭け金を、Wで賭け金総額、Qで配当金比率を表すと、QW/Wiが馬iに対する払戻金の倍率となる。Oi=QW/Wi-1と定義すると、馬iのオッズはOi to 1とか、Oi-1と表され、オッズOi-1の馬に1ドル賭けた時の払戻金は、最初の1ドルプラスOiドルとなる。馬iに対する賭け金の比率Wi/Wは単勝得票率と呼ばれる。しばしば競馬ファン全体での馬の勝率に対する評価と解釈される。なぜなら、利益を最大にする馬に人は賭けると考えられるからである。けれど、この本のいくつかの論文では単勝得票率のみがほぼ馬の真の勝率に等しくなることを示している。
1-Qはレース主催者の取り分である。そのお金の一部は税金として国に納められる。USではStストレート馬券の場合、14から19%である。(日本の26%のように、他の国ではもっと高いこともある。)エキゾティック馬券の場合は20-25%またはそれ以上である。
レースの間隔は通常20分。その時間の間に次のレースの賭けが行われる。ほとんどのレースでは単勝、複勝のオッズを公開し、これらの数字は毎分程度の間隔で更新される。エキゾティック馬券の場合は、組み合わせの数が膨大になるので、公開されてもその一部のみ。
この本の内容:
1.心理学的な研究
確率の評価におけるバイアス、ギャンブラーの誤謬、Framing?など。
2.競馬ファンの効用関数とリスク選好
競馬データを用いて凸な効用関数を求めた。期待効用を最大化からF-Lバイアスが再現される。
3.経済学的、数学的な考察
(1)最適な賭けの戦略(2)ファンダメンタルに基づく能力評価の方法(3)さまざまな順序の確率(順序確率)の評価方法
4.単勝市場の効率性とF-Lバイアス
競馬ファンの主観勝率と客観勝率にはF-Lバイアスがある。競馬ファンのリスク選好により説明可能。人気馬のオッズの高さを利用して儲けることは難しく、競馬単勝市場はweak form の効率市場である。F-Lバイアスの例外が日本、香港の市場である。
5.複勝馬券市場の効率性
6.エキゾティック馬券市場の効率性
7.英国連邦とアジアの競馬市場
多くの国ではパリ・ミュチュエル方式ではなく固定オッズを用いる。F-Lバイアスが存在する。